【前編】西村先生に伺う健康寿命を延ばす
『“適糖”生活®』について
2024.01.29
幸せ
2024.01.29
幸せ
サステナビリティ推進室における5つの寄り添いの一つとして、幸せに寄り添う「幸せ分科会」。
糖分過不足による弊害の解消を目的に、日々の生活に於いて適度な糖分を摂取する“適糖”生活®を推進すると同時にそのモデル構築に注力しています。
今回、活動の一環で糖尿病の栄養療法の第一人者である西村一弘先生(駒沢女子大学人間健康学部健康栄養学科教授・公益社団法人東京都栄養士会会長)を招聘し、勉強会を開催。
基調講演にはサステナビリティ推進室メンバーを中心にグループ会社を含めて計129人が参加しました。
目次
小児1型糖尿病患者との関わりを通し、1990年代後半からパラチノースに着眼してきた西村一弘先生。
“適糖”生活®の周知にあたっては、2018年頃からDM三井製糖グループと共に活動を行っています。
糖分過不足が健康にどのような影響を及ぼすのか、リスクと対策、“適糖”生活®の大切さを語ってくださいました。
現在、平均寿命と健康寿命の差は約10年の差があります。言い換えれば10年間、病気や寝たきりの高齢者がいるということです。
高齢者がいつまでも元気でいるために、国の施策では「フレイル予防」がキーワードとなっています。フレイルとは要支援や要介護になる一歩手前の状態のことで、栄養不足、ひいては糖質不足が原因と言われます。フレイル予防よりも圧倒的にメタボ対策が周知されているのが現状ですが、健康寿命を伸ばすためには糖質をしっかり摂ってもらう必要があります。
また、痩せ過ぎは寿命を縮めると認識を変えていただきたいと思います。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2020年版)において、65歳以上の方の目標とするBMI値は21.5~24.9と、65歳未満の目標値より高く設定されています。これは、観察疫学調査で総死亡率が最も低かったBMI値を参考に算出されています。
フレイルや要介護状態になる原因として認知症が挙げられますが、高齢期のBMI低下と認知症に関する研究では、体重の急減やBMI値が下がることが認知症のリスクになるとの報告例があります。75歳以上の男性で普通に動ける人は、2500kcalは摂ってください。メタボ予防はできれば65歳までで、どこかでフレイル予防にギアチェンジしなければいけません。
厚生労働省が行った研究で、70歳は健康寿命を延ばす起点だと示しています。筋肉量は70歳前後で大幅に減り、認知症リスクは60代後半から倍々に増えています。糖尿病リスクや腎臓病リスクも同様です。「シニアの食生活と健康意識に関する調査(2017年8月ネオマーケティング出典)」によると、60〜70代は体力の低下・筋力の低下/筋肉の減少・腰、ひざの痛み、物忘れなどに不安を抱えています。
体力や筋力の低下の要因はエネルギー不足にあります。体力維持、筋力維持においていかにエネルギーとしての糖質を摂るかが重要です。脳は、糖質の一種であるブドウ糖をエネルギーに活性化されます。朝ごはん抜きの子どもの成績が上がりにくい傾向にあると、よく耳にしますが、脳内でエネルギー源となる糖質は認知症予防にもつながります。高齢者においてもブドウ糖の摂取は必須です。ブドウ糖が脳のエネルギーになるだけでなく、心臓を動かし筋肉の合成にも必要であるのに、なぜ糖質制限をするのかということです。
糖質が優れたエネルギー源である理由は、糖質がエネルギー消費の着火剤の役割を果たすからです。身体がエネルギーとして使う順番は、糖質、脂肪、たんぱく質です。つまり、最初に糖質が燃やされ、脂肪はその後です。ジムなどで「有酸素運動は必ず15分以上続けてください」と言われるのは、脂肪が燃え始めるのが15分過ぎてからだからです。最初に糖質、次に脂肪が燃やされ、それでも足りないときにたんぱく質が使われます。たんぱく質が使われる時点でエネルギー不足であり、その結果、乳酸が溜まったり、疲労が残ったりするわけです。
認知症にとって低血糖は一番のリスクであり、同時に高血糖も認知症のリスクです。昨今の認知症研究において、悪玉たんぱく質が脳細胞に沈着し、どんどん溜まっていくとアルツハイマー型認知症の発症につながることが明らかになってきました。悪玉たんぱく質であるアミロイドベータたんぱくはインスリンによって分解されますが、糖尿病患者のような高血糖の方は脳へのインスリンの供給が不足するのです。とくに高齢糖尿病患者は治療や食事療法によって急激な低血糖になりやすいため、一般の方と比べて認知症リスクが2〜4倍にアップしています。
糖質不足や、たんぱく質をたくさん摂ることが腎臓へ悪影響を与えることや心血管疾患のリスクが増えることも明らかになっています。糖質不足は美容にも良くないことがわかっています。
エネルギー産生栄養素をみたとき、厚生労働省の調査によると、糖質の摂取量は年々減少し、戦後から2015年までで約5%下がっています。日本人の食事のバランスからすると、一番たくさん摂らなければいけないのは糖質です。それにも関わらず、糖質≒炭水化物は摂取率自体が国民全体で明らかに減ってきています(シニアの食生活と健康意識に関する調査)。糖尿病患者はいまだに年々増え続けているのに、糖質摂取量は減り続けている状況に矛盾を感じます。
高齢者に起こりうる様々なリスク対策の上でも、これからは糖質の質に注目し、良い糖質を適量摂り、楽しく身体を動かす生活を送ってほしいと思います。そもそも、糖質が良くないと言われる理由に食後高血糖が挙げられます。糖尿病の専門家たちの間では、食後高血糖が動脈硬化を進め、色々な合併症につながるということも明らかになっています。そこで、食後の血糖を緩やかにし、かつ低血糖を予防しながら持続的に吸収していく『スローカロリー』と呼ばれる食事法を推奨しています。
スローカロリーの実践例として、私が顧問を務める緑風荘病院では低GIのための牛乳を使った和食(乳和食)や一汁三菜を提供しています。牛乳は血糖値の上昇を緩やかにする大事な成分であり、一汁三菜は糖質をゆっくり吸収させるためには効果的です。また緑風荘病院では、全ての病院給食においてパラチノースが使用されています。エネルギー源としての糖質の恵みを賢く享受することが、いつまでも元気に過ごせる道筋となります。だからこそ“適糖”生活®を送り、無理せず楽しく過ごしながら健康寿命を伸ばしてほしいと思います。
サステナビリティ